開講、オタスケクラブ

スケボーしてたら靴紐切れた。千切れた所を結んでどうにかしようとしたら違う所がまた切れた。その日はスケボーするの止めた。
自分の部屋に戻ってスペアの靴紐を探す。たしか取っておいたはずだと引き出しの中を探したら、見つけた。赤い。
右の靴と左の靴で色の違う靴紐を付ける事になった。これいいぞ。なんかオシャレっぽいぞ。半そで短パン長髪でギュンギュンスケボー滑ってる俺、ちょっとイケてんじゃねコレオイ、そして靴は左右違う色の靴紐、右白、左赤、ガァーーーーッパッカァーンガァーーー。


まずスケボーの何が良いって、一人で出来る所が良い。そして競争しなくて良い、勝ち負けも無い、あまりやってる人も多くない、お金かからない、スポーツっぽく無い。
スケボーのそういう所がことごとく僕に合ってると思う、本当に好きだ。だから、逆に、皆でやって、競争で勝ち負けがあって、競技人口が多くて、お金がかかって、スポーツって感じな、そういうのが僕は大嫌いだ。例えば野球とか、野球の面白さって出塁してリードしてる時ぐらいしか感じた事がない。
スポーツ観戦が分からない、自分がプレーするならまだしも、プロ野球とか何が面白いのか、僕が見たいのはバッターでは無くて出塁してリードしてる選手なのに、それは映らないのである、全くふざけている。
あと、練習とか試合とかの考え方が嫌い。スケボーに練習とか試合という概念は無い、常に試合であり本番であり練習なのだ。練習サボったからといってチームメイトに何か言われる事も無い。


あと、ほとんどのスポーツが身長や身体の大きい者の方が有利にできてるのは何故? 僕のような身長158センチの小男が170センチ強(日本の平均身長)の奴らに勝つために、なんでいちいち工夫せなアカンねんと、ちょっと待てと。なんでバントせなアカンねんと。なんでバット短く持たなアカンねんと、なんでディフェンスせなアカンねんと、なんでフェイクとか入れなアカンねんと。なんで柔よく剛を制さなアカンねんと。ずっと思ってた、もっとガチでできるスポーツは無いのかと。
あとほとんどのスポーツは、背の小さい奴がやっても似合わない。何かしっくり来ない、見てて違和感がする。身体の小さい上手い選手は逆にそのギャップで人気が出るのだろうが、そのギャップを感じる事自体がおかしな話なのである。


スケボーというスポーツに身長は関係無い、低かろうが高かろうが板の長さを変えれば何の問題も無い。ビリヤードのような、遠い所を打つ為の器具を使って相手に文句を言われるような事など一切無い。
そして、身長低い者の方がスケボーはかっこよく見える、逆に2メートルぐらいある奴がスケボー乗ってたら違和感があるだろう。
年齢もバラバである、小学生でプロスケーターもいれば三十代四十代もいる、女の子もいる。
年齢性別体格関係無しでガチでできるスポーツ、それがスケボーなのである。


なぜ君らはスノボーはするのにスケボーをしないか、それはスケボーがスノボーよりも難しいからである。いやスノボーした事無いから分からないが、スケボーはおそらくエクストリーム系のスポーツの中で一番テクニカルなスポーツだと思う。日本語に直すと、スケボーは滑走系の運動の中で一番技術的なスポーツだと言っておる*1
あと日本人的島国根性が考えられる、というかこれしかない、つまり君らはいつもどこでも皆と同じ事がしたいのだ、だから雪山でスノボーできても、商店街でスケボーはできない、なぜなら雪山でスノボーをする事は普通だから、皆普通にやってるからできる、でも商店街でスケボーは普通ではない、皆やってないからできないのである。これが島国根性と言わず何と言おう。サーフィンやってる奴も一緒、つかサーフィンかスノボやってる奴はまずスケボーをやれデフォでやっとけ。
ローラースルーゴーゴー(オシャレな名前失念)が流行ったのを分析すればこれは間違い無い。まずアレはスケボーより簡単、そして皆乗ってる、て事で流行った訳だ。でももう流行ってない、何故か、それはスケボーよりも圧倒的にかっこ悪いからだ。
たまーにだが、僕がスケボーやってると、ローラースルーゴーゴー(オシャレな名前失念)に乗った小学生が通るんだが、その時の食いつきようったらないぜ。正直スケボーと比べたらあんなもんただのおもちゃである。
つーか、あの当時流行ってたローラースr、思い出したキックボードだっけ? それ、やってた奴今もやれば良いのにと思う、今もキックボードで通勤通学すれば良いのにと思う。一時でも自分がかっこよいと思ったんだから、皆がやってなくても恥ずかしがらずにやれば良いのに。
お前らみたいな、流行を追ってるだけの、皆と同じ事しかできない、へたれな奴にスケボーはできないのだ。


僕はスケボー乗り始めた頃の事を思い出す。
当時、商店街をローラースr、キックボードでオシャレな奴が滑ってるのを見てイライラしてた、なんじゃアレ、スケボーの方が絶対かっこええやん、と思ってた。
僕は、高校時代に買ってほとんど乗らずに放っておいたスケボーを引っ張り出してくる。昔からスケボーに対する憧れはあった、スケボーのかっこ良さは分かってる、キックボードとスケボーは全然違う、その取り組む姿勢、精神からして違う、という事も分かってたし、心酔してたし、崇拝してた。それだけにキックボードにイライラした。
でも、僕のようなダサい奴が超かっこ良いスケボーなんてやって良いのだろうか、笑われないだろうか、という思い、そしてスケボー超難しい、という理由で高校生の僕はスケボーをやらなかったのだ。
それからいく年月、僕は22歳になっていた。
そうだ、僕はなんと22歳でスケボーデビューしたのである。これはかなり遅い。
最初は、毎日タバコを買いに行く行き帰りの五分をスケボーに乗る、という習慣を作った。いや最初の日は一分ぐらい乗ってみて、あまりの難しさとあまりの恥ずかしさですぐ止めた。
ちょうどその頃精神的に落ちてたのが、なんとか回復しつつやっと働き始めた頃なので、スケボーをするなんて考えられない事だったが、スケボーやるなら今しかない、僕は変わりたい、と思って努力したらできた。
んで、一週間、一ヶ月、三ヶ月、と毎日愚直にタバコの行き帰りをスケボーに乗って、五分が十分、十分が十五分になって、いつのまにかスイスイ乗れるようになってた。
これは、今までコツコツやってきた事の無い僕のような人間にとっては驚きである、三ヶ月前の自分では想像できないぐらいスイスイ乗れているのである。三ヶ月前は、通りすぎる人の顔なんて全く見れずに、俯いてただじっと地面を見ながら、顔を真っ赤にして、心の中で大丈夫誰も笑ってない、笑われたって皆僕の家族だと思え、家族に笑われても恥ずかしくない、と言い聞かせながらやってたのが、どうだ、三ヶ月したら普通にスケボー滑れているのである。いや正直まだこの頃は恥ずかしさが抜けていなかった、自分のスケボーはまだまだダサいと本当に思ってたし、ぎこちない動きだと思ってた。
スケボー始めてから半年後である、女の子に声をかけられた、人生で初である。その女の子は言う「スケボー毎日やってますよね、かっこいいです」僕が? かっこいい? これもまた人生で初である。
自分がいつかやってみたいと憧れて、あんな風に乗れたら気持ちよいだろうなあ、かっこ良いなあ、と羨望の眼差しで見ていた、スケボーというスポーツ。それをダサい自分もやり始めて、ダサいなりにコツコツやってて、でもまだまだ理想には程遠くて、でもただ憧れのスケボーに乗ってる事だけが嬉しくて楽しくて、ただそれだけで毎日やってたスケボー。それがいつのまにか、他人にかっこ良いと言ってもらえるようになった、それは何だ、その時の僕の心に渦巻く感情は何だ、その女の子は何を言っているのか、僕は信じられなかった、自分がかっこ良いはずが無かった。


月日は流れ、スケボー開始より一年半が過ぎ、僕はスケボーをしなくなった。全くいっこうに、少しも上手くならなくなってしまったからだ。むしろやればやるほど下手になっていき、スケボーをやるのが楽しくなくなってしまった。その時やってたのは、オーリーなんだが、一年半もやっててオーリーもマニュアルすらもできない、できるのはチックタックとプッシュぐらいという、運動音痴にも程がある。一週間でオーリーをマスターしてしまう人も居るというのにだ、僕は自分の運動のできなさぶりに嫌気がさし絶望してしまったのだ。


そして約二年後、僕はもう一度スケボーに乗る。今度は煙草も止めたし、鍛錬も始めた。鍛錬(筋トレの事)やるとあきらかに身体の動き方が以前と違う、自分の思い通りに動く、これはすごい革命的な発見。あっというまに上手くなっていく、みるみる上達していく、そうなるともう楽しくてしょうがない。
オーリーができるようになるとスケボーの楽しさが分かるとか、オーリーできるとできないじゃ世界が違うとか、オーリーこそスケボーとか、そのように言われているが、まさにその通り。ついに僕はオーリーができるようになった、オーリーができる僕は正直すごいと思っている。まあ普通出来ない、ただ乗って滑るだけでも難しいのにスケボー乗ってジャンプとか普通無理、でも僕はできる! と思うと顔がにやけてくるぐらい嬉しい、僕があの憧れのオーリーをいとも簡単にしている、俺、今、オーリーして、いる! とか。
子供の食いつきが違う、すごい見てくる、すげーすげー言われる。女の子も見てくる、ヤンキーも見てくる、おっさんには文句言われるが、ヤンキーには顔ではなくスケボーを見られる、目を合わしてこない、勝ったと思う、お前らオーリーできんのか? と。


ここにきて、今になって、途中二年のブランクを経て、最近スケボーがもう楽しくてしょうがない。始めた頃はたった五分でぜいぜい言ってたが、今では毎日三十分から一時間は滑っている。この時期でも汗いっぱいかくが、超気持ちよい。下半身の筋肉はものすごい事になってるし、体重は51キロで体脂肪率14%だし、アスリートとしてはまだまだなので、もっと鍛錬していきたい。
靴も靴紐切れるし、靴の裏を見たら、ラバーが擦り減って下地の柔らかいとこまで見えてるし、オーリー穴あいてるし、左右靴紐色違うし、短パンで半そでで、小男で黒髪長髪でキモイし、なんだけど最近自分の外見が気に入ってきた。前までは、自分のルックスに対して別に嫌いじゃなかったけど、自分が女なら好きになるか? と聞かれればまず間違いなくNOであり、恋愛至上主義的には最下層であり恋愛障害者であった訳だが、今は自分が女でもアリかもしれんと思える。特に劇的に変わった訳では無いのだが、何故かそう思える。特にスケボー滑ってるとことか、左右違う色の靴紐とか、ダサいユニクロのカーディガン着てオーリーしてるとことか、ちょっとかっこ良いと自分で思える。これが後のモテである。モテとは自覚なのである、とか思ってるんだけど、果たして僕にモテはやってくるのだろうか童貞。


スケボーとオタクは相性いいと思うんだよね。オタクこそスケボーをやるべき、これを略してオタスケと言う。
人と同じじゃ嫌とか、自分を変えたいとか、引きこもりがちとか、自分に勝ちたい弱さを克服したいとか、思ってる人は皆スケボーをやりなさい。スケボーなんて自分には無理とか似合わないとか、そう思ってる人程やりなさい。一昔前のスケボーがブームだった頃と違って、今スケボーに乗ってる人や続けている人には、いわゆる不良ぽい人はほとんどいない。なぜなら、スケボーは他のスポーツとは違うのだよ、ただかっこつけたいだけの人間にスケボーはできないのだ。もくもくと自分の世界で自分と向き合える人、まるで修行僧のような人にこそスケボーは向いていると思っている。
マジで、スケボーには色々な事を教わった。人生に必要な大切な事はすべてスケボーから教わった。スケボーをやる事で僕はものすごく成長した。僕は、スケボー大好きだっ!

*1:エクストリームスポーツという言葉をウィキペで見たら、危険を伴うスポーツの総称との事で、滑走は関係無かった。まあXスポーツの中でも技術的に難しい部類だと思う。ところでオーリーが発明されたの1978年って超最近やがな、僕の生まれる二年前。オーリー考えた人はオーリーという名前だったらしい、オーリー天才やね