僕は死ぬように生きていたくはない

「死ぬ」の反対語はなんだろうか、「死ぬな生きろ」なんて台詞をよく見る、では「死ぬ」の反対は「生きる」だろうか、でも「死ぬ」と「生きる」は似てない、全然違うもののように思える。例えば「高い」の反対が「暗い」と言うぐらいの違和感を感じる。
僕が思う「死ぬ」の反対は「生まれる」である、その方が正しい、それにこっちの方がしっくりこない?
そもそも「生きる」って何だ? 「生まれる」から「死ぬ」までの間それを「生きる」とするなら、言いかえれば「死んでいこうとする」とも言える。では「生きる」事と「死んでいこうとする」事は同義だろうか? 全然同じ意味にはならない、ではその違いは何か?


「生きる」事の不可逆性に注目したい。つまり生きていればいるほど死に近づいている、その逆は無い。これはすべての生命、果てはすべての物質にも、同じ事が言える。
何故生まれたものはいずれ死んでしまうのだろうか? その説明は誰もできない、そういう風に世界が出来ているとしか言えない。つまりこの世界は一方通行で皆「死」に向かっている、というルールがあるみたいだ。


根源的なこの世界のルールに則して考えるなら、「生きる」と表現するよりも「死んでいこうとする」という表現の方が正しいように思える。科学的にもこちらの表現の方がより的を射ているしね。つまり僕は今生きているのでは無く、死んでいこうとしている、って事。
でも、そんな表現は普通使わない、自分は今「死んでいこうとしている」と考えて生活している人などほとんど居ないだろう。
では何故人は「生きる」という表現を使うのだろうか? 生物としての遺伝子の影響で「死」を恐れるから、無意識に「死」を嫌忌しているから、自分が今「死んでいこうとしている」という事実を考えたくないからなのかもしれない。


ではもう一度この質問に戻ろう、「生きる」事と「死んでいこうとする」事は同義だろうか? その違いは何か? 普遍的(科学的)な答えを出すならば、違いは無い、二つは同じ意味、というのが実は正しい答えになる。


――はい、ここまでは一般論、誰しもに当てはまるけど、それだけに一つの考え方の指標にすぎない、ここからは僕の個人的な考えを書いていきたい。


「生きる」事と「死んでいこうとする」事が同義だとするなら、ではこういう感情は成り立つだろうか「生きる事が辛いので死にたい」これは言いかえると、「死んでいこうとするのが辛いので死にたい」という事になるねw 矛盾している。
これは何を意味してるかっていうと、「生きる」という言葉の概念は一つだけではない、という事。生物として「生きる」という事と人として「生きる」という事の違い、その違いを理解する事で、僕は人としてどう「生きる」べきか、あるいは人としてどう「生きたい」かが分かるような気がする。


まずその前に人間は「生物として生きる」べきか「人として生きる」べきか、どちらが正しい姿なんだろうか、これには答えは無い。自分がどちらを望むかである。あるいは両立させる事だって出来る。多くの人が「生きる」という言葉に持つ概念は「人として生きる」の方であるが、しかしこれは別に生き方を選択している訳ではない。
思うに、「生物として生きる」方が楽に生きられる、なぜならこの世界のルールに則した生き方だから。生物として人間は安定を求める、その場合の安定とは「順調に何事も無く死んでいこうとする事」それが「生物として生きる」という事なのかもしれない。「死」こそ究極に安定した状態なのだ。
逆に「人として生きる」方の生き方は、不安定だから辛い。この世界のルールに則するなら「人として生きる」事は間違った生き方だからだ。「人として生きる」事がどういう生き方かというと、それは人それぞれ違う、あえて定義するなら「死ぬ事を前提にした生き方では無い生き方」と言う以外ない。


正直「人として生きる生き方」は人間の遺伝子がどこか一部が壊れてしまっているとしか思えない。人間の遺伝子と世界のルールは完全に反目している、人間が不老不死を願う事こそがその証拠だ。


しかし、こう考える事はできないだろうか、人間の遺伝子と世界のルールが反目しているその矛盾、そこにこそ人間が生まれた意味があるんじゃないだろうか。たしかに「人として生きる生き方」は非常に辛い、いずれ死ぬんだからすべて無駄のようにすら思える、しかしそれに立ち向かい抗う事こそが人間がすべき事なのかもしれない。


君らはどちらを選ぶだろうか。人生に何を望む? 生物としてひたすら安定を求め順調に何事もなく死ぬ事を望む? それとも人として辛く険しい不安定な道を求め、それに立ち向かい抗う事を望む? あるいは生物と人その両方を半分ずつ望む?
僕はどうだろう、少なくとも今は辛く険しい道を選ぼうと思う。すべてが無駄になるとしたって構いやしない、なぜなら僕は死ぬように生きていたくはないからだ。



僕は死ぬように生きていたくはない、

本音さ、死ぬように生きていたくはない。

     中村一義キャノンボール』より